今年の『情報メディア白書』(ダイヤモンド社)はとても面白い。コロナ禍を通じて目まぐるしく変化した情報メディア業界の総括的な位置づけとなっていて、少々高い本ではあるものの、購入する値打ちは十分あります。通販・ECについては、他にもいろいろレポートがありますが、「通販・ECの告知経路としてのメディア」についてはこれだけまとまっている情報源は知りません。

例えば、BSの年間CM出稿量、1位富山常備薬、2位チューリッチ保険、3位サントリー…、折込チラシは読まない、50代59.3%、60代43.1%…などなど。

ネットは集客媒体か?受注チャネルか?

申込手段
ネット(スマホ+PC)85.7%、電話(固定+携帯)25.7%、他
媒体別売上構成
ネット 21.6%、DM 11.4%、テレビ 11.3%、カタログ 11.0%、他

昨今の通販・ECの主流は、インターネットです。ただインターネットの意味するところはさまざまです。自分の行動を思い浮かべると、最近は通販もほとんどがネットショッピングです。ここでいうところのネットショッピングは、PCやスマホで買い物をすることで、事業者側からは「申込がネットである」ということになります。受注のチャネルがインターネットになっていると言ってもいいでしょう。

しかし、商品を知るきっかけはどうでしょうか?何か買おうと思ったらとりあえずオンラインモールやいつも使っているECサイトに行って検索、そして注文という流れになるでしょう。ただ、商品を初めて知るとなるとちょっと事情が違います。ネット広告、SNS投稿、テレビ、郵送されてくるDMやカタログなど、自分を振り返ってもいくつかの経路があります。情報メディア白書では、次のようなデータが掲載されています。これを見ると、消費者は、「知るきっかけ」は現在でも多くの媒体を通じて得ているものの、その後はネットで注文していることが分かります。

ECを始めると、すべてがネット上で完結できるような気になりますが、現実にはネットでアピールしやすい商品もあればそうでない商品もあり、アナログメディア(特に印刷物)も排除せず適切な媒体で顧客とコミュニケーションが必要だ、ということが分かります。ただし、紙媒体は単価が高いこともあり、どちらかというと既存顧客、その中でも上顧客に優先的に使う、という流れになっていくでしょう。

注目のEC化率、21年は伸び鈍化

コロナ禍の影響で20年には一気に+1%近く伸ばしたECですが、21年は+0.4%の伸びで止まりました。米国のEC化率がおよそ14%強に達するのに対し、日本はまだ半分程度ということになります。

EC化率
2019年6.1%、2020年7.2%、2021年7.6%

米国の場合、コロナ禍時にBOPIS、カーブサイドピックアップなど、店舗受取型のECが増えました。クリック&コレクトとも呼ばれています。ちょうど顧客のレジ待ちへの不満が膨れ上がっていた米国の小売業界がコロナ禍をきっかけに一気に注文のEC化に向かったことになります。

ただしこのような解決策を可能にするためには、購入された商品を保管し顧客に引き渡すスペースが必要です。残念ながら国土の狭い日本ではスペースを確保することは容易ではありません。そのため日本では日用品のEC化は米国のようには伸びそうもありません。

売上シェア(通販新聞300社ランキング)
上位1~10位で45%、上位1~100位で82%  

さらに、日本の通販・EC市場は寡占化が進んでいます。日本では、例えば楽天市場には約5万店、BASEには180万店が出店しているそうですが、売上の構成を見ると、上位が市場のほとんどを占めています。以下の数字は通販新聞の300社ランキングの上位社が占める割合ですが、100位までで82%と非常に高い数字になります。これからECで生き抜いていくためには、商品がよっぽどの特徴があるか、もしくはビジネスモデルに特徴があるか、のどちらかしかなさそうです。

広告費比率は高止まり、テレビ通販市場は縮小でネットシフトは続く

売上に対する広告宣伝比率
20年38.4%, 21年37.5%、前年より0.9%ダウン
テレビ通販の市場全体における割合
2011年10.5%→2021年5.9%、10年で半減
テレビ媒体の利用率
   20年35.6%、21年42.0%

日本通販協会の調べによると、売上に対する広告宣伝費の比率(会員社平均)は37.5%と高い水準で推移していることが分かります。通販・ECともに集客にはコストが掛かることには変わりありません。ただ投資する媒体の種類には変化が生じています。かつての通販の主要媒体であったテレビは市場としてはこの10年で半減。主戦場は言うまでもインターネット、特にモバイルとなりました。

ただ、ネットでの競争が過熱気味になってきた昨今、集客媒体としてテレビの再活用の動きが見られます。こちらも通販協会の調べですが、テレビ媒体を利用している会員社が21年増加へと転じました。通販・ECはもはや競争の激しい市場です。他社が気づかない商品・媒体を早く見つけた者がシェアを取る、というのは通販・ECでは常識と言っていいでしょう。

皆さんも日ごろからアンテナを張り巡らせて、是非一番乗りしてください。

(了)

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