オムニチャネル化に欠かせないEC機能

店頭ピックアップやネットスーパーなど、コロナ禍を通じて様々な店舗&EC連携サービスが登場しました。オムニチャネル、OMO (Online merges with Offline)、O2O (Online to Offline)など、連携の方法などによってさまざまな呼び方がされていますが、ユーザーの視点からはシンプルに「お店のEC化が進んだ」と見えているのではないでしょうか。

ただ、使い勝手はサービスによってまちまち。一体何のためにEC作ったんだろう?と疑問に思うようなサイトも散見されます。そういった苦戦している事例を分析していると、使い勝手の悪さの裏側には、実は企業の組織の構造に課題があることが分かってきます。企業側は失敗の原因として、在庫だとか、アプリのユーザビリティだとか、いろいろなことを列挙しますが、少し掘り下げると、そもそもなんでそれらの方式を採用したのか、というところに突き当たり、それは実は組織の問題に依ることが分かります。

オン/オフの統合に立ちはだかる二つの課題

話を整理するために、課題を以下の二つに分けて考えましょう。

  • オペレーション課題

在庫の引き当てや、ピッキングの段取りなど、ECの注文をどのようにリアル店舗で実現するかという課題。

  • 組織的課題

在庫の責任、送客した顧客の売上は誰のもの、ピッキングやカスタマーサービスの費用負担はだれのもの、といった組織に紐づく利益・コストの課題。

オペレーションの課題は、ユーザビリティやコストなど、事業の価値やコストに直接かかわる課題です。例えば、ネットスーパーで買い物をするとき、在庫を店舗と共通にした場合、ECで受注した商品が直前に店内のお客さんの買い物かごに入ってしまってECの受注に引き当てができなくなる可能性があります。そのような不都合はサービスの価値に影響します。(詳しくは、拙著「コマース・マーケティング」をご覧ください。)

この課題に対しては、在庫を多めに持つ、EC用の在庫を持つ、欠品した場合は代替品に切り替えるかどうかお客さんに確認する、などの方法が考えられます。ただ、どの解決策も実現するためにはコストがかかります。お店が在庫を多く持つためにはお店の負担が増えてしまいますし、逆にEC用の在庫を準備すればEC側のリスクが増えます。代替品への切り替えの場合は、さらに複雑なのでここでは割愛しますが、いずれにせよ誰かにコストがかかります。

逆に、店頭ピックアップのECの売上は誰のものでしょうか。店頭商品なので、当然店舗も売上の権利があるように思います。しかし支払いはECで済ませています。さて、どのように売上配分をすればよいでしょうか?

このように、誰がコスト負担をするのか、この施策によってアップした売上は誰の功績とするのか、といったことを決めるのが、組織的課題となります。例えば、「多めに在庫を持つ」費用を、EC部門が負担することにすればリスクが減り店舗も納得、といった具合の調整事です。(余談ですが、このようなサプライチェーン/バリューチェーンの中での「取り分」の公平な分配は、経済学でも盛んに研究されています。例えば、こちら。これが結構難しい・・・)

もめ事の火種、送客問題

この組織課題が最も顕著に表れるのが、「客は誰のものか?」という考え方です。同じ企業の中なので、「誰の」という議論はおかしな気がしますが、お客様は売上を生み出してくれる大切なビジネス資産なので、店舗やEC部門からすれば、そうやすやすと他部門に渡してしまうことはしません。特にフランチャイズを展開している企業の場合、店舗は自立した企業体ですから、「ECに送客しろ」と指示を出したところで、そう簡単に承諾できるものではありません。

企業全体では、顧客情報を共有することで悪いことはほとんどありません。(個人情報がしっかり保護されている前提ですが。)一つの店舗では接客にも限界がありますから、多くの場合機会ロスが生じています。それをEC部門が補填してくれるのであれば、店舗でECをお勧めする「送客」は悪いものではありません。ただ、店舗は見えない機会ロスのために大切な顧客を他部門に渡すことにはためらいを感じます。

組織的な課題は、究極的には組織の在り方を変更してしまうことで解決される場合があります。しかし、フランチャイズ制のように、そう簡単に変更できないこともたくさんあります。これが組織的課題の難しいところです。

送客問題の場合には、多くの場合、「お気に入り店舗」を登録させることで、「どの店舗の客か」を簡易的に識別できるようにします。これにより、「ECに客を取られない」ことを担保しつつ、送客後に店舗客がどれくらい商品を購入したか可視化が可能になります。可視化ができれば、次は評価です。送客後の売上をどのように店舗に還元するか、その割合に納得ができれば店舗からECへの送客が可能となります。

ECは、店舗からの送客だけでなく、独自に集客も行います。これらの独自集客を各地の店舗に送客することもO2Oの重要な機能です。ECについて回る課題の一つに送料の問題があります。店舗への送客、いわゆる店頭受け取り、取り置きは、送料負担を減らす上でも有効な手段です。(EC側にとってもお客さんにとっても・・・)

このように組織的問題は、店舗やEC部門の成果・コストを「見える化」することで多くの場合解決が可能です。このような努力なしに、オン/オフ統合の実現は不可能です。

「何とかしろ」と組織問題を先送りは、確実に失敗

このような組織的課題を解決しないまま、「これからはECが重要だ」とECに参入してしまうと何が起こるのでしょうか?それは、自明、事業の失敗です。

組織的課題を未解決のままECに参入してしまうと、いろいろなところでECビジネスの制約が発生します。例えば先ほどの送客問題ですが、課題未解決で進めると、以下のようなことが起こります。

  • EC部門は独自で客を探さなければならなくなり、大きな集客コストを負担することになる
  • 集客効率をアップさせるため、目玉商品を準備してサイト流入を増やしたいが、大幅値引きは既存店舗の顧客を奪う可能性があり、かつ、店舗との価格の整合性が取れなくなる
  • 店舗との調整を行うと、インパクトのある販促施策が行えず、結局EC集客が滞る。結果、売上が伸び悩む。

こうなると、EC部門の責任者は、企業の上層部にがんじがらめの状況を説明し打開策を求めます。しかし、ECの売上不振が組織的問題に起因していることを理解している上層部は少なく、思わず言ってしまいます・・・「何とかしろ」・・・こうなるとEC部門の未来はほぼ閉ざされたと言ってよいでしょう。

企業の上層部の方々がECのオペレーションについて豊富な知識があるのは稀ですし、そんなことは期待しません。ただ、ECと店舗の統合には見えない組織的課題が大きく横たわっていることを覚えていてほしいと願います。

(了)

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