最近のECカート(ECシステム)にはいろいろな機能がデフォルトで付いていて、とても便利です。様々な割引が可能なクーポンもいつでも使える状態になっていて、とても便利です。
クーポンは顧客セグメンテーションの一つの方法
クーポンは「値引きの一種である」というのは嘘ではないのですが「お客さん全員へ割引をするわけではない」というところでは本質的に異なる手法です。
そもそもクーポンを使うためには、お客さんに手間がかかります。ひと昔前のアナログの時代には、クーポンを使うためには、チラシや冊子から欲しい商品を探し出し、切り取って、お店に持っていき、レジでクーポンを取り出して・・・といった段取りが必要でした。そんな苦労までしてクーポンを使いたい、ということは、そのお客さんは「その商品は欲しいが、お値段的にはちょっと手が出ない」と思っているに違いありません。一方でお金に余裕がある人、もしくはその商品が無性に欲しいと思っているお客さんは、わざわざクーポンを探し出すよりは、今すぐ買う、となるでしょう。
このように、クーポンは「ちょっと高いなぁ」と感じているお客さんに対して、多少の手間と引き換えに値引きをする手法と考えることができます。すなわち、クーポンは、「あとちょっと背中を押したら商品を買ってくれるお客さん」を自動的に発見し、購入促進する仕組みを有しているのです。セグメンテーション&ターゲティングなのです[1]。お客さん全員に値引きをするものでは、本来ありません。
しかし、現実には、すべてのお客さんにすべての商品に適用できる一律割引クーポンをメルマガ配信している、というECサイトもたくさんあります。本来のクーポンの狙いからすると、無駄が多いクーポンの使い方と言えます。
ECの目標はLTV最大化、個別メッセージでクーポン配布もカスタマイズ
ECの目標は、お客さんの生涯価値(LTV)の最大化にあります。集客コストが負担となるECにおいて、少ない顧客数でビジネスを成長させるためには、一人一人のお客さんの購入単価とリピート率をアップさせる、すなわちLTVのアップが不可欠です。目標がLTV最大化であるならば、クーポンもこの顧客ファネル(下図)がどんどん右にシフトするように使うべきです。
さて、クーポンの使い方を考える前に、ECにおけるクーポンの特色を一つ確認しておきます。それは「セグメンテーション&ターゲティング」です。クーポンは顧客獲得以降のプロセスで主に用いられます。(獲得以前に使う場合もありますが、今回は割愛します。)そうなると、個々のお客さんが、今、ファネルのどの状態に居るかを推測することが可能になります。ここがアナログクーポンと最も異なる点で、ECで既存客に送るクーポンは、EC事業者側でお客さんのセグメンテーション及びターゲティングが可能になる、すなわちクーポンの出し分けができる、ということになります。どのお客さんに対してどの程度の強さで背中を押すべきか、を調整できるということなのです。
目指せ!顧客ステージ別/目的別クーポン・ポイント施策設計
さて、顧客ファネルのステージ別にメッセージが出せるのであれば、施策もそれに沿って設計したいものです。ここでは獲得以降のプロセスで行われる施策を並べてみます。そうすると、どの施策でクーポンをどのように使うべきかが見えてきます。
ちなみに、本ブログではクーポンを中心に話をしていますが、実際の販促施策には会員ポイントというのもあります。ここでは両者区別せず話を進めます。
図のように各種販促施策を購買ファネルに即して分類すると、どのタイミングでどんなクーポンを出すべきかが少し明らかになります。例えば、ステップメールに掲載するクーポンは、一回目購入の商品と同じものになります(2回目購入を促進するため)。クロスセリング促進メールには、既にかった商品と関連度の高い商品のクーポンを掲載します。「次に何を買ってほしい」ということが決まっていて、そのために背中を押すクーポンを発行する、ということが適切であることが見えてきます。
クーポンの効果についても、購入率がクーポンなしに比べてアップしているか、またその後その商品の購入頻度が増えているか、などを確認することで効果の確認ができます。ECではABテストが随所で可能となります。
一方、お誕生日や記念日に発行するクーポンは、通常「どの商品でも使える」クーポンを発行します。これは記念日のクーポンは、お客さんが離反しないことへのお返しなので、買い物全般に使えるようなクーポンを発行します。こちらはクーポンの利用率を見ると同時に、いつもと異なる商品を購入しているかどうかを確認するのが良いでしょう。買い回りが増える、というのはロイヤル度の一つの現象ですし、クロスセリングやレコメンデーションによる商品提案のチャンスも増えることを意味しています。
クーポンをどのタイミングで、どの商品に対して、どのお客さんに発行すべきかについては、このように顧客ファネルに沿った施策のマッピングを見ることで明確に整理することができます。またそれぞれの施策にはそれぞれの目的がありますから、施策のKPIも明確に設定することができます。
一斉クーポンの誘惑と戦う覚悟も重要
クーポンは、お客さんのセグメントに対して、特定の商品について発行すべきだ、と述べてきましたが、ECの実態を見ると、どこもかしこも一斉クーポンです。どうしてこのようになるのでしょうか?それは売上をショップ単位で見ていることに多くの場合起因します。ショップで催事を行うと、その日・週の売上アップが気になります。
ショップ全体の売上を特定の期間にアップさせるにはどうしたらいいでしょうか?それは一斉値引きや一斉クーポンが最も効果的です。当たり前ですが、一部の顧客セグメントだけにクーポンを出すよりは、顧客全体にクーポンを発行する、もしくは値引きを仕掛ける方がショップ全体の売り上げ増につながります。ただ、この考え方はLTV最大化とは必ずしも一致しません。LTV最大化は、お客さんの都合に合わせて行われますから、そのタイミングはショップの催事とは必ずしもタイミングが合うわけではありません。
店長という立場からすると、どうしても日々のショップ売上を中心に考えがちですが、それがLTV最大化につながっているかは、常に意識すべきだと思います。
(了)
参考文献
[1] 山川 (2022)『コマースマーケティング』p.127-p.135. コマースマーケティング 10のキーワードで楽しく学ぶリテールDX
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