十年ほど前、ソーシャルメディアが台頭してきたころ、トリプルメディアという言葉が流行りました[1]。それまでは広告(ペイド)と自社サイト(オウンド)がほとんどでしたが、そこにソーシャルメディア(アーンド)が入ってきたのです。マーケティングのプランニングも当然変わってきます。当時はトリプルメディアを組み合わせてコミュニケーションを組み立てることを、トリプルメディア戦略と呼ぶこともありました。ちなみに、トリプルメディアというのは日本語だそうで、英語圏ではPOEM(Paid, Owned, Earned Media)と呼ぶそうです[2]。

トリプルメディアとEC

トリプルメディアは、ECにおいても重要な概念です。まずここでは、一般的なトリプルメディアの概念について確認し、ECとの関わりを見ていきます。

オウンドメディア

オウンドメディアは自社で所有しているメディアのことを指します。自社サイト、自社ブログ、メールマガジンなどを指します。SNSはアーンドだという意見もありますが、ここでは、公式SNSは自社のコントロール度合いが高いということで、オウンドに入れておきます。

ECでのオウンドメディアは、ECサイトということになります。ECサイトには商品ページの他、トップページ、特集ページ、コラム、などが含まれます。主に商品購入のための情報を掲載しますが、コラムなどは検索エンジン最適化(SEO)の一環として準備されることもあり、集客の施策と見ることもできます。

メールマガジンやLINEのトークメッセージは、コンテンツを自社でコントロールできるという意味でオウンドメディアと言えます。ECでは購入後のCRMも重要な活動になりますが、その際に必要になってくるのがメールやLINEお友達のような1-to-1型のオウンドメディアということになります。

ペイドメディア

ペイドメディアは、費用を支払って利用するメディアのことです。主に広告のことを指します。YouTuberに対価を払って商品・サービスをプロモートしてもらうような施策も、ペイドとしておきます。【PR】【広告】などの表記があるものは、広い意味で広告です。

ECで多く用いられるアフィリエイト広告も、ペイドメディアです。成果報酬型なので、ECでは顧客の獲得単価をコントロールしやすく、便利です。しかし、一部アフィリエーターが報酬欲しさに過大な広告表現を使ってしまうなど、トラブルも増えている分野です。消費者庁も規制強化を打ち出しています[3]。

InstagramやTwitterのフィードに現れる広告、いわゆるSNS広告もペイドメディアです。InstagramやTikTokの投稿にはECサイトへのリンクは直接つけられませんが、広告にはリンクを掲載することができます。(このあたりは以前、ブログに書きましたので詳しくはそちらを見てください。)

アーンドメディア

消費者やメディアが自発的に商品・サービスについてコメントするなどして、情報を拡散してくれるものを指します。ソーシャルメディア上での拡散を意味することが多いですが、ニュースリリースをメディアが取り上げてくれる場合も含まれます。

ECにおいては、商品レビューも重要なアーンドメディア・コンテンツとなります。特に、AmazonなどのECプラットフォームの場合はレビュー及びレイティングは売上を大きく左右する要因となります。だからと言って、なりすましで自社に都合の良いレビュー投稿することは、ステルスマーケティング(ステマ)にあたり禁止されています。ただ、どこまでがステマなのかは難しい問題です。日本WOM協議会がガイドラインを出しているので、そちらを参考にするとよいでしょう。[4]

ECの日常のなかのトリプルメディア

ここではトリプルメディアとECの関係について見てきました。しかし、ECではメディアの管理よりも顧客の管理の方が重要です。そのためECではメディアもファネルに即して管理することが多いように思います。ちなみに、集客だけでなく顧客のロイヤル化まで含めたファネルは、しばしばダブルファネルと呼ばれています[5]。

ファネルの作り方はいろいろありますが、ここでは、簡単のために、集客、コンバージョン、リピートと3段階でダブルファネルを表現しようと思います。このダブルファネルはECビジネスを維持するために必ず必要になるものです。前節のトリプルメディアの説明で登場してきたメディアをこのファネルに沿ってマッピングしたものが以下の図です。

ECにおけるメディアフォーメーション例

これを見ると、ECの日常にはトリプルメディアがまんべんなく登場することが分かります。どれかが欠けるとファネルが壊れてしまいますし、例えばペイドメディアについてもファネルの最初から最後まで横断して広がっていることが分かります。

会社が大きくなると、「集客部門」「CRM部門」という具合にファネルごとに部署に役割が与えられていることがありますが、一つのメディアがファネル横断的に機能しているということは、組織の中でも部門間での連携が重要である、ということが分かります。「SNSアカウントは違う部署が管理しているから、手が出せないんだよね~」なんてぼやき、聞いたことありませんか?それはファネルの機能不全の現れかもしれません。一度トリプルメディア×ファネルの表を作って確認してみてはいかがでしょうか?

(了)

参考情報

[1] 横山, 隆. (2010).トリプルメディアマーケティング: ソーシャルメディア、自社メディア、広告の連携戦略. 日本: インプレスジャパン.

[2] トリプルメディアと呼ぶのは、日本だけ。 POEMとPESOと“PESOオーダー”。 (1/3):MarkeZine(マーケジン)

[3] アフィリエイトトラブルが多発!消費者庁による規制強化の内容とその対策|ECzine(イーシージン)

[4] 【WOMマーケティング協議会】クチコミマーケティングの業界ガイドラインを改定 – Kyodo News PR Wire|レスポンス(Response.jp)

[5] マーケティングファネルとは?基礎〜応用方法を解説 (hubspot.jp)

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