ブランディングや集客など、広告は様々な目的で利用されます。かつては目的に応じて媒体を選択し、広告計画を立案していました。しかし現在ではテレビ番組がTVerなどでも観ることができたり、YouTubeがテレビ受像機で視聴できたりと、かつてのように広告が掲載されるコンテンツと表示されるデバイスの1対1対応が通用しなくなってきました。とても広告計画の立案には面倒な状況です。媒体社が提供する広告メニューを見ていても、異なるデバイスに露出された時広告がどのように機能するのか、統一的にはほとんど書かれていません。何を頼りに広告計画を行うべきか、よりどころがはっきりしません。

そこでこのブログシリーズでは、広告と広告を表示するデバイスとを分離して、それぞれがどのような特性があって、組み合わせるとどのような効果があるかを整理していきたいと思います。分解して理解しておけば、どのようなメッセージを伝えるべきか、というコンテンツの議論とどのように伝わるかという媒体特性を整理して計画が可能になるはずです。

多様化するメディア、実はデバイスはすべてコンピュータ

広告計画を難しくする原因の一つは、メディアの多様化です。広告費を見るとインターネットがテレビを抜きNo.1になり、その内訳も検索連動広告や、さまざまなSNS広告など多種多様です。しかし状況をもう少し観察すると、これらはメディアの多様化と言うよりはコンテンツを載せているプラットフォームの多様化(SNSや動画、検索など)であるようにも見えてきます。しかし、大きくくくってしまえば、どれもインターネットです。

さらに広告が表示されるデバイスのレベルに視点を移すと、現代の広告メディアは、そのほとんどがネットワークを備えたコンピュータであることがわかります。あまり意識したことはないかもしれませんが、現在の多くのテレビはUNIX系のテレビ用OSの上で動いているブラウザですし、サイネージの多くもWindows PCの応用版です。すべてはコンピュータなのです。

ただ、違いもあります。それは大きさや場所など、物理的な制約に起因します。まず、画面が大きいか否かで複数の人数で一緒に見やすいか否かが決まります。すなわち、共視聴が多いか否かにかかわります。小さい場合は、今度は持ち運びが容易になります。

現代の広告では、クリックやECの注文など、レスポンスができるかどうかというのも重要な要素です。ゆえに、レスポンス用の入力デバイスを備えているか否かも重要な要素となります。さらに、GPSやカメラなどもマーケティングには重要なデータソースになりますが、いったんここでは場所と入力デバイス特性に注目して、主要な広告デバイス、テレビ受像機、PC、スマホ、デジタルサイネージの4つについて分類をすることにします。これらを大雑把にですがまとめたものが、以下の表になります。

このように広告のいろいろな機能はデバイスの特性から生まれてきていることがわかります。そうすると、デバイスをどのように活用しようか、という議論もきれいに進みます。

テレビはレスポンス媒体になりうるのか?

今回のブログでは、まずデバイスとしてのテレビに注目したいと思います。デバイスレベルでの特徴なので、テレビ放送もネット動画のテレビ視聴も横並びでテレビの特性を評価しようと思います。

表でまとめたように、テレビは映像の表現力も豊かで、また画面も大きいため家族で共視聴できるという特徴もあります。一家団らんというのは今でもあるのか、ないのか・・・社会・集団におけるテレビの役割については、大変興味深いところではありますが、本ブログでは、現代の広告におけるレスポンス性を有しているのかについて確認したいと思います。テレビはレスポンスデバイスになりうるのか、ということです。

ご存じの通り、テレビは古くから通販の広告媒体として多く活用されていました。「今すぐお電話を!」といったテレビ通販は現在でも多く目にします。しかし通販がデジタル化、EC化されていく昨今、電話よりはネットでの注文の方が便利だと思うお客さんは多いはずです。

最近のテレビの多くは、インターネットにつながっています。リモコンの4色ボタンを押すことで投票ができますし、動画視聴サービスに会員登録すれば好きな動画をいつでもオンデマンドで観ることができます。リモコンはいわば動画コンテンツの注文デバイスになっています。さらにはコンテンツだけでなく、テレビから出前を注文したり、さまざまなサービスを注文できるサービスもたくさん出てきています。

ただ、これらの双方向のデータ基盤は、放送・サービス事業者は使いこなすことができますが、通販広告を複数の放送局へ出稿する広告主の視点からは不便に思えます。手間を惜しまなければ、各放送局・サービス事業者側に双方向サービスの設定は可能ではありますが、一つのコンテンツ(広告)を複数の媒体社を通じて出稿することを考えるとコスト的にあいません。そうすると現実的には、テレビからのレスポンスをテレビから直接受け取ることは効率的ではなく、電話やスマートフォンとの連携が必要となるという結論に至ります。

テレビ×スマホにもいろいろある

お客さんにリモコン以外の方法でレスポンスしてもらうための方法はいくつかあります。アナログでは電話が代表的ですが、デジタルの場合は以下のようなものが代表的です。操作方法の難易度もそれぞれですが、いずれも課題となるのが、広告との紐づけです。

  • 【方法1】検索へ誘導する

おそらくこちらが最も簡単で、多く用いられている方法です。

注意点としては、正しく文字を入力してもらうようにお客様のサポートを心掛ける必要があるということです。ブランド名はカタカナで外国語が語源であることが多くあります。そういうブランド名はとにかく入力が大変です。どんな文字列を入力したらよいか、視覚的にも分かるようにする配慮が必要です。

検索後の受け皿の設計も重要です。検索エンジンが表示する検索結果の1位に自社サイトが掲出されているか、検索結果の上部に競合の広告が入っていないか、など検索エンジンの挙動の確認が必要で、場合によっては検索連動広告が必要になることもあります(費用がかさむのでできれば避けたいが)。

検索結果からの誘導先がショップのトップページになっている場合、テレビで露出した商品を見つけやすくする配慮も必要です。たくさんの商品を扱っているECサイトの場合、目的の商品をサポートなしに見つけるのは骨が折れます。サイトのファーストビューに「テレビCM、OA中」といったバナーを付けるなどの工夫が必要です。

注文に至った場合も、どの広告から流入したかを特定することが難しいのも課題です。注文フォームに「何を見て」という欄を設けても、どこまで正確に入力していただけるか不安は残ります。実は広告との紐づけは、電話の方が簡単なのです。オペレーターが間違いなく聞いてくれて、データベースに登録してくれます。

  • 【方法2】QRコードを掲出する

検索は、商品ページまで到達するのにいくつかのステップがあり、あちこちに離脱の危険が潜んでいます。直接商品ページに飛ぶ方法はないのか?現時点で最も普及している方法は、QRコードでしょう。

QRコード(二次元バーコード)は、スマートフォンのほとんどで読み取りが可能です。昨今ではLINEの友達登録やスマホ決済でも使われ、広い世代で利用が進んでいます。このQRコードを用いれば、検索せず直接商品ページに到達が可能となります。その点では検索より直接的な導線となります。

一方でQRコードを読み込むには時間がかかるという課題があります。スマートフォンを取り出し、カメラを起動して、と手間がかかります。わずか数十秒ではありますが、15秒や30秒のテレビ広告はあっという間に終わってしまいますから、QRコードは向きません。

逆に通販番組のように長い尺のコンテンツの場合は、QRコードはとても便利です。Shop ChannelやQVCでは商品紹介をしている間、ずっとQRコードが表示されています。テレビでネット動画視聴している際にも、広告や商品紹介コンテンツにQRコードが掲載されることがあります。ネット動画はテレビ放送よりコンテンツや広告の尺に自由度があります。

QRコードには、どの広告から流入したかを示す情報を埋め込むことも技術的には可能です。しかし、一つのコンテンツを複数の媒体社で展開する場合には、いちいち流入元情報をさしかえQRコードを作りコンテンツに組み込まなければならないので、やはり負担が大きいと言えます。ただし、今後コンテンツも自動生成・入稿が進むでしょうから、QRコードに流入元情報を入れるのも人手が必要なくなり流入元込みでQRコードが使われる可能性は高いと思われます。

  • 【方法3】レスポンス媒体とのメディアミックス

上記二つの方法は、テレビで見た・知った商品を購入する導線を想定していましたが、テレビ広告や、動画コンテンツに挿入される広告の尺は短いものが多く、購入の意思決定に必要な商品の詳細な情報を提示できないことも多くあります。

ただ、テレビというデバイスは、動画と音声で商品を印象付けることは得意です。それなら商品を知ってもらうための役割に特化して、同時に別のメディアで詳細情報を提供し意思決定を促すというというのはどうでしょうか?

これは一般的にメディアミックスと言われる手法になります。古くから存在しているのは、テレビ広告と折込チラシとのミックスです。テレビで商品認知を高めて、チラシで商品の詳細情報を伝えレスポンスを促します。チラシには、電話、はがき、検索、QRコードなどお客さんが最も便利な方法でレスポンスが可能です。

メディアミックスで問題になるのが、どうやって複数のメディアをミックス(重複)させるか、という点です。テレビと折込チラシのミックスは、テレビ広告と折込チラシがいずれもエリア内世帯のほとんどをカバーするように出稿します。全世帯にテレビ広告が到達し、全世帯に折込チラシが配布されれば、それは必ずミックス(重複)します。ただしこの方法はとてもコストがかかります。

デジタルでのメディアミックスでは、トラッキング/ターゲティング技術を活用します。動画広告を見た人を追っかけて、ミックスしたい広告を配信する、というのが一番わかりやすい方法です。ただ、この方法では個人の行動履歴が必要になるので、個人情報保護の観点から今では限られた媒体でしか実施ができません。

そこで妥協の手段として用いるのが、動画広告とミックスするデジタル広告を同じターゲットで配信するという方法です。ターゲットが複数のデバイスをどれくらいの頻度で使っているかは広告主側からは見えないのですが、同じ人たちに配信しているのですから、おそらくミックスするはずです。ただ、現在テレビ受像機でターゲティング可能な広告が配信できるのは、ウェブ動画などまだごく一部なので、この手法が普及するにはまだ少し時間がかかりそうです。

まとめ

テレビは、テレビ放送を観るものというのは今は昔。ネット動画や様々な動画コンテンツもテレビで見る時代となりました。何かしらのデバイスを通じてネットにつながっているテレビを、コネクテッドテレビ、CTVと呼びます。既にCTV経由のネット動画コンテンツ視聴時間もテレビ受像機の利用時間の3割を超えたと言われています[1]。もはやテレビをテレビ放送の受像機としてとらえるだけでは理解不足です。

そこで本ブログでは、デバイスとしてのテレビに立ち返り、デバイス特性としてテレビ単独ではレスポンスが苦手であることを確認し、他のメディアとの連携の方法論を整理しました。この考え方は、テレビ放送も動画コンテンツへの広告出稿も変わりません。

今回はテレビを取り上げましたが、他にも様々なプラットフォームが引きめし会うスマートフォンや、昨今ネットワーク化が進むデジタルサイネージについても、デバイスの特性からスタートすると理解しやすいことがたくさんあります。・・・それらはまたどこかの機会に。

[1] “多様性”から理解するコネクテッドテレビ -生活者と広告主にとっての「テレビとデジタルの交差点」 – 知るギャラリー by INTAGE

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