ECや通販事業者の売上ランキングは、主なものでも3~4つあります。それらを見ると、共通点もありますし、数字の乖離も見られます。果たして実態はどんな感じなのでしょうか?いくつかのデータを合わせて読み解いてみたいと思います。

ECランキングと通販ランキング、どちらでもNo.1はアマゾン

売上ランキングを見るときにまず注意しなくてはならないのは、その売上がECのみなのか、それともテレビ通販や新聞通販など、EC以外の通販も含まれているか、ということです。通常通販の売上ランキングは、ECも含みますので、ECランキングの数字より大きくなります。

ただ、どのランキングを見てもNo.1となるのはアマゾンです。通販新聞の最新のランキング[1]によれば、21年10月~22年9月のアマゾンの売上は2.5兆円にも達するそうです。同じランキングの2位アスクル(4,285億円)、3位ミスミグループ(3,661億円)、4位ジャパネットホールディングス(2,506億円)を大きく引き離します。ご存じの通り、アスクルはカタログを中心としたオフィス用品の通販がメインですから(と言っても注文は今はほとんどネット経由)、ECだけで抽出するとその差はもっと広がります。

ここで気になるのが、「楽天」が無いことです。楽天は日本国内ではアマゾンに匹敵する大きなECサイトではありますが、機能としては「モール」が中心なので、自身が仕入れ販売している売上・販売金額としてはそれほど多くない、すなわち上位にランクインいない、ということになります。

ちなみに、楽天自ら仕入れ販売を行っている「Rakuten Direct」(旧ケンコーコム、爽快ドラッグ[2])は、富士経済の推計[3]によれば、2019年の販売金額は760億円だそうです。これだけの規模となると通販新聞にもランクインされるような気もしますが、残念ながら通販新聞はEC専業か、古くから通販を行っている企業を中心にデータを集計していて、業態が複合的な楽天グループは調査対象から外れているようです。イオンリテールなどの新興ネットスーパーも対象外のようです(生協の通販は集計されていますが…)。

ECプラットフォームの大きさを知る指標GMV、でも実態把握は難しく

楽天は明らかにモールとしてはアマゾンに匹敵する規模です。楽天市場のようなモールの場合は、楽天自身の仕入れ販売の売上だけでなく、楽天市場全体を通った総額を見た方が規模を把握しやすくなります。そこでよく使われるのが、GMV(Gross Merchandise Value、流通総額)です。

楽天の場合、年間で約5兆円となります[3]。ただし、ここには楽天西友ネットスーパーやトラベル、ビューティーなども含まれます。対するアマゾンですが、こちらもアマゾンの直接の仕入れ販売以外にセラーと呼ばれる出品者も存在するため、GMVとうい概念が存在します。ただ、アマゾンは流通総額を公表しておらず、大雑把な推計数字しかありません。例えば、ネットショップ担当者フォーラムは、amazon.co.jpの2021年の流通総額は約5兆円と推計しています[4]。楽天とアマゾンはだいたい同じ大きさ、ということですね。

同様に、Yahoo!ショッピング、メルカリなども気になるところですが、それぞれ独自の集計をしているため、細かく実態を分析するのは一苦労、というのが現実です。

年間売上1千億円超は、多品種総合通販、例外はサントリー

事業規模を拡大する一つの方法は、商品の種類を増やすことです。事実、年間売上1千億円以上の企業は、家電のジャパネットやBtoB総合のモノタロウ、アパレル総合のZOZOなど、カテゴリーの違いはあるものの、「総合」的に多数の商品を取り扱う企業が並びます。商品の種類が多ければ、まとめ買い効果で客単価も上がりますし、いろいろなものが買えるのであればお客さんも再来訪してくれます。

例外的な存在は、サントリーウェルネスです。セサミンで有名な健康食品通販企業です。健康食品は同じ商品をリピートしてくれることにより、客単価とリピート率を実現します。そのため、少ない商品数でビジネスが可能です。ただ、商品数が少ないため事業規模としては総合通販よりも一回り小さい印象です。その中でサントリーウェルネスは、昨年の通販新聞のランキングではついに1千億円の大台に達したとされています。

健康食品通販の事業規模は?

サントリーウェルネスにつづく主な健康食品企業(通販事業)では、ファンケル(568億円)、世田谷自然食品(328億円)、山田養蜂場(282億円)、やずや(170億円)などが続きます。(数字は、いずれも昨年のランキングより。)これらの企業は化粧品や食品など、複数の商材を組み合わせ、売上を作っています。

メーカーが健康食品事業に参入しているケースもあります。この場合商品数がそれほど多くなく、事業規模も一回り小さいことが多いようです。例えば、ビフィズス菌サプリを中心に展開している森下仁丹やEPA商品を得意とする日本水産の事業規模は、40~50億というところです。

これらのデータを合わせて考えると、自社の得意な素材を使った健康食品をメーカーが出す場合は、まずは20~30億円くらいの事業規模を目指すのが現実的だと言えます。…実際には新規事業で1億円売るだけでもたいへんなのですが…

低迷する単品リピート型健康食品のEC化

さて、通販新聞のランキングは、テレビ通販やECなど、無店舗販売での売上をすべて合計した売り上げによるランキングでした。ただデジタル化が進んだ昨今、できれば電話で受注することは避けて、ECに一本化したい、という経営者は多いと思います。そこで、ECの売上を基にしたランキングは無いか?

月間ネット販売[5]で毎年発表されるネットビジネスのランキングは、ECに特化したランキングとしては網羅的なものだと思います。このランキングには通販企業も多く登場しますが、通販新聞のようにテレビショッピングなどの売上は入ってきません。

ただ、ECでの売上というのはなかなか曲者でして、例えば紙のカタログを送付してその中に掲載している商品をネットで注文したらどちらに入るか、といった曖昧さが出てきます。物理的な注文はECサイト経由ですが、商品番号やクーポンコードから、明らかに印刷されたカタログの商品であることが分かることは多々あります。さて、これは印刷カタログ(すなわちアナログ)による売上と見るべきか、注文がネットなのだからECと自るべきか…このあたりは、実は絶対的なルールはなく、集計者、回答者の「判断」となります。

さて、話をランキングの話に戻します。月間ネット販売2022年10月号のデータを見ると、主な健康食品会社のECの売上は、先ほど出てきました企業を挙げますと、ファンケル293億円、やずや16億円、山田養蜂場13億円などとなっています。先ほどの数字と比べるとずいぶん小さい数字です。ファンケルで約半分、やずや10%、山田養蜂場5%といったところでしょうか。ファンケルは別として、もともとテレビや新聞を中心に行ってきたシニア層中心の健康食品事業のEC化は大変低いのです。もっとも、これらの健康食品企業のメインビジネスは定期コースなので、ビジネス構造上EC化されにくいというのがあるのですが…

コロナで大成長、食品のEC事業はどれくらいの規模か?

コロナの巣ごもり需要によりECは大きく成長しました。その中で注目されているのが、食品ECです。食品はスーパーなど、リアル店舗で買うことが現在でも主流で、EC化が進んだと言っても3%台です[6]。ただ食品全体の市場規模は大きく、多くの企業がEC市場を目指します。

食品EC事業として規模が大きいのは、ネットスーパーやギフトを取り扱う百貨店です。例えば、イオンネットスーパーの年間売上は750億円に達します[5]。カテゴリー特化型のECとなると、ぐっと規模が小さくなります。と言っても、カニの販売で人気の「匠本舗」を運営するスカイネットは108億円を売上ます。その他では、出汁の「茅乃舎」を運営する久原本舗81億円(60%)、「越前かに職人甲羅組」の伝食80億円(100%)、「うまいもんドットコム」の食文化65億円(100%)などが続きます。(括弧内はEC化率)

食品のECの特徴としては、一部久原本舗などを除きますが、ほとんどが自社以外に楽天、アマゾン、ヤフーなどに出店している、いわゆるECの多店舗型のビジネスだということです。「お取り寄せ」的な色合いの強いECが多いのも特色です。自社開発商品というよりは、地方産品を広い売り場で販売するビジネスモデルです。

これらを見ると、これから食品ECをスタートするのであれば、自社商品を自社サイトで展開するモデルなのか、多店舗展開で売り場を広げるビジネスモデルなのか、あらかじめ意識しておくべきだ、ということが分かります。

ランキングは事業拡大のイメージトレーニング

いろいろなランキングを合わせてみてみることで、事業規模とビジネスモデルには何か関係がありそうだということが分かってきました。商品カテゴリーによっても違いはありますが、ECとそれ以外のチャネルのミックス、自社サイトとECの多店舗展開など、いろいろなことが売上規模にかかわってきます。

もちろんいきな主要りランキングにランクインするのは難しい話ですが、ランキングを眺めることでどうやって事業を成長するか、イメージすることは出来ます。ランキングは、ボーっと見ては駄目。ビジネスモデルを想像するツールなのです。

参考資料

[1] 通販新聞社 / 10兆円超も伸び率低下<第79回通販・通教売上高ランキング 上位300社 本紙調査> 一部でコロナ需要の反動減 (tsuhanshimbun.com)

[2] Rakuten Direct – Wikipedia

[3] 流通総額(取扱高)、従業員数|楽天グループ株式会社 (rakuten.co.jp)

[4] アマゾン日本事業の売上高は約2.5兆円、ドルベースで230億ドル【Amazonの2021年実績まとめ】 | 大手ECモールの業績&取り組み&戦略まとめ | ネットショップ担当者フォーラム (impress.co.jp)

[5] 月刊ネット販売Online | ネット通販 月刊専門誌 (nethanbai.co.jp)

[6] 電子商取引実態調査(METI/経済産業省)

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