EコマースやOMO、BOPISなど、コマースマーケティングにはいろいろなビジネスモデルが登場します。これらの違いやさらにはメリット/デメリットを理解するために、そもそも商品を選んで購入するのにどんなプロセスが存在するか知っておくことが重要です。このプロセスは、Eコマースの場合はほぼすべてECサイト側のオペレーションとなり、EC運営の理解にもつながります。またその一部をオンラインからオフラインに引き渡した場合がO2O(Online to Offline)と呼ばれるものになります。
思い立ってから購入までのプロセスを図示する
以下の図がその流れになります。もっと細かく書くこともできますが、まあ全内の構造を把握するのであればこれくらいの粒度で問題ないでしょう。
Step 1. 課題を認識する
課題を認識するとは大げさな感じですが、ものを買おうとするときには必ず目的があるはずであり、その発端となる課題があります。マヨネーズ一つとっても、「野菜に味が足りないよな」といった課題があるわけです。もちろんその課題を強く意識しているか、ぼんやり感じているかの強弱はあります。いずれにせよ購入には何かしらのきっかけがあることがほとんどです。
この課題の認識は、自発的に思いつくこともあれば、広告など外部の刺激によって思いつくこともあります。
Step 2. 商品を探索する
課題があれば、次に商品を探します。探し方は色々です。ECサイトなら検索窓に何かしらワードを入れるでしょう。そのワードをどのように選ぶかも実はすごく重要なプロセスです。課題をそのまま入れる場合もあれば、商品カテゴリーを入れることもあり、何かブランド名を知っていればそれを入れることもあります。
課題認識から商品の探索については、このように人間がどのようにキーワードを思いつくか、連想の構造が潜んでいます。ここでは議論はしませんが、例えばコトラー他の有名な教科書( [Kotler Keller, 2009], Ch.6, 13)にはその連想についての解説があります。
Step 3. 商品を選択する
商品を探すことと選択することは同じではないか?と思う人も多いと思います。確かにスーパーでは棚で見つけたら取り上げてかごに入れますから、ほぼ同じような気がします。しかしECでは、探すという行為は検索窓で何回か検索するという行動になりますし、選択するというのは検索結果から商品の詳細ページを見てカートに入れる行動になります。ちょっと違いますよね。
Step 4. 商品を確保する
これも奇妙な表現です。スーパーならば商品を手に取ってかごに入れる行為になります。これにより「この商品はまだお金を払っていないが、私が買う予約をしている」という状態になります。
車など大きな買い物であれば、手付金のようなことになります。ECの場合はカートに入れていても支払いをしようとしたときに、「売り切れました」となる場合があります。ということはカートに投入したことと商品確保をしたことは微妙に時間差が生じます。しかし、支払い完了後に「商品が確保できませんでした」では商売になりませんから、一般的にECでもリアル店舗でも、商品確保⇒支払いという手続きを経ます。
Step 5. 支払いをする
商品が確保できたら次は支払いです。ここは特に疑問はないでしょう。
Step 6. 商品を梱包する
一般的には購入した商品は家まで運ばなくてはなりません。この運ぶという行為は自分で行う場合もあれば、配送業者が行うこともあります。その運ぶという行為の前には、商品を運べる形にまとめるという行為が必要です。
スーパーでは、レジ袋に商品を詰めますし、ECでは箱詰めを行います。ECの箱詰めのためには、購入された商品を棚からピックアップするというプロセスも必要になります。
Step 7. 自宅へ搬送する
自宅と書きましたが、商品の消費場所が自宅でない場合は直接消費場所に搬送するかもしれません。そのあたりは適宜解釈してください。いずれにせよ店・倉庫が商品の消費場所になることはまれで、運ぶというプロセスは必要で、それが自分なのか配送会社なのか、誰か運ぶ主体に梱包された商品を引き渡す必要があります。
Step 8. 自宅で受け取る
自分で配送した場合は受取というのは大げさですが、家に商品が到着するというのがこの一連のプロセスのゴールになります。配送業者が届けてくれた場合はこの時点で商品受け渡しのプロセスが入ります。
さて、ここまでの買い物プロセスの分解、頭に入りましたでしょうか?
実はやることが多いEC、BOPIS
全体のプロセスが分解できたら、それをそれぞれの販売スタイルにあてはめて、どこに課題が存在するか、今までどう違うかを見てみましょう。と言いましても、あくまでも全体を俯瞰したいので、少々粗い記述ですが、その点はご容赦ください。
今回は、通常の店頭販売、特にセルフサービス型のものを基準に考えましょう。それとネットスーパーのようなEC、BOPIS(Buy-Online-Pickup-In-Store、詳細はいずれどこかで)を考えます。
それぞれに「どこで」「誰が」を記述します。店頭セルフサービスの場合は、ほとんどのプロセスは自分(=お客さま)が行うことになります。買った商品をマイバックに詰めて、自宅に運ぶところまで自分です。
それに対して、ECもBOPISも商品を梱包してお客様に引き渡すところはスタッフの手を借りなければなりません。BOPISの場合はロッカーで引き引き渡せば無人化できるかもしれませんが、いずれにせよ専用の施設が必要となります。これを見ればECもBOPISもセルフサービスに比べて費用が掛かります。
商品を確保する、という部分については、「自分orスタッフ」というあいまいな評価をしました。これは在庫の問題が関係します。もし注文を受けたものをすべて倉庫から取り出す場合は、注文を受けたと同時に在庫数をシステム上減らして在庫を超えて注文を受けないようにします。これは自動的に行われるので新たにスタッフを配置する必要ありません。
一方、お買い物代行サービスのようにお店の棚から商品をピックアップする場合は、ネットの注文とお店にいるお客さんが同じ棚から商品を取り合う可能性があります。そのため、誰かスタッフが注文を受けた分だけ商品を棚から別のところへ確保する必要があります。もしお店のお客さんが先に消費をかごに取ってしまって在庫がなくなった場合は、注文を取り消すということも起こりえます。人の配置は在庫の持ち方にどうしても引っ張られます。
ここで気づくことは、店頭のセルフサービスに比べ新たに配置が必要となったスタッフは、主にお客さんの購入の意思決定の後のプロセスで必要になってくるものであり、お客さんが何を買うかについては直接影響しないということです。
本来であれば、デジタルテクノロジーを使うからにはお客様に新しい価値の提案を行ってより多くの商品・サービスを購入してもらいたいところですが、実はECもBOPISも構造的には価値提案よりも前に商品の梱包・配送に物理的に追加コストが発生してしまうモデルなのです。
では、新しい価値の提案はどこにあるのか?これは先ほどの表の前半の商品の探索・選択、もしくはその前の課題の認識の部分になります。この部分はデジタルマーケティングの部分になりますが、ネットであっても店舗に負けない、いや店舗以上の提案力がない限り、後半のスタッフなどの追加コストを相殺して利益を作り出すことができない、ということが分かります。結構大変ですよね。
今回は大きなくくりで全体イメージを持ってもらう程度の粒度でした。O2OやOMOについてもこの程度の粒度でしたらそれほど難しくないので、自分で確認してみてはどうでしょうか?さて、実際にオペレーションを作る、改善する場合には、もう少し細かくステップごとに強み・弱みを確認して、打ち手を考えていくことになります。その際、デジタル技術でどれだけ価値のある見せ方ができるか、という多少の技術的な評価も必要が出てきます。なかなか全体を通じてバランスの良いプロセスを作るのは難しいのですが、少なくともこのアプローチでどこにボトルネックがあるかを発見することは可能です。是非お試しあれ。
参考文献
KotlerPhilip, KellerL.Kevin. (2009). Marketing Management, 13th ed. Prentice Hall.
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