日本の物販系ECの伸び率は、昨年5.37%でした[1]。一方、Amazon Japanは26.5%増[2]、楽天市場は12.3%増[4]と日本のEC全体よりはるかに大きな成長を見せています。すなわち、EC市場において、プラットフォーマーのシェアが増えていることになります。今回は、これらECにおけるプラットフォーマーの役割について振り返りたいと思います。

ECプラットフォーマーはEC事業者の敵か?味方か?

ECプラットフォーマー(以下、PFと略します)には二つの側面があります。一つは自ら仕入れ販売する、EC事業者としての側面。もう一つは電子モールのオペレーターとしての側面です。前者は、自ら商品の販売をするので規模は売上(もしくは販売金額)として測られますが、後者はモールの中の店舗の売上を合算した取扱金額として規模を測ります。これはGMV(Gross merchant value)とも呼ばれます。

アマゾン(グローバル)の場合、売上は2200億ドルですが、GMVは6100億ドルと言われています[3]。すなわち6割以上は、アマゾン以外のセラーの売上ということになります。世界的に見ればアマゾンは多くの事業者にとってのプラットフォームになっていると言えます。日本では、売上は3兆2097億円と推計されています[2]。この売上にはAWSや広告事業などの売上も含まれている一方で、セラーについては手数料しか含まれていないので、日本のアマゾンのGMVが一体いくらくらいかは正確なところは分かりません。

一方の楽天は、GMVは5.6兆円と発表されています[4]。日本のB2CのEC規模(物販、サービス、コンテンツ合計)が22.7兆円[1]と言われていますから、とりあえずアマゾン(売上)、楽天(GMV)の合計を見ると、実に4割近くがこの二つのプラットフォームを介しているということが分かります。

自社ECを展開しているEC事業者からすると、巨大で成長著しいプラットフォーマーは小売業としては脅威です。プラットフォーマーでは、EC事業者1社ではとても扱えないような多くの商品をそろえています。品揃えという観点では、まったく歯が立ちません。

一方で、プラットフォーマーは多くの顧客を抱えており、EC事業者にとって魅力的な出店場所です。自社ECで集客するよりもプラットフォームを利用する方が効率的なケースは少なくありません。また、複数のプラットフォームに出店すれば、商品をより多くのお客さんに露出できます。このような多店舗展開をECの多店舗展開と呼びます。顧客にとっては、プラットフォームの店舗での買い物は、共通ポイントが貯まるのも嬉しいポイントです。

ただし、EC事業者側から見ると、プラットフォームへの出店には他社との差別化に課題が残ります。同じような商品がプラットフォームに並んでいるため、希少性をアピールしにくくなります。かつては「通販限定」という特別感がありましたが、現在ではECでの購入が一般的になり、プラットフォームで買えるものに特別感を感じる人は少なくなっています。通販で人気の高かったカテゴリーは、例えば健康食品や化粧品などは、自社ECで独自路線を貫くか、多店舗展開の道を進むか、難しい選択を迫られるでしょう。ただ商品を販売するだけでは、プラットフォーマーの方が有利です。なぜなら、彼らは膨大な商品バリエーションを持っているからです。

自社ECを続けていくには、プラットフォーマーにはできないことを競争の源にしなければなりません。例えば、個別のお客様に対する接客や、独自のサブスクの仕組みなどです。プラットフォーマーが苦手な分野で、顧客の満足度を高めることが重要です。アナログ通販からスタートしたEC事業者は、人とのつながりを深めるノウハウが豊富です。これは強みとなるでしょう[5]。他にも、カリスマ店員が行うライブコマース/ソーシャルコマースは、プラットフォーマーが真似しにくい販売方法の一例と言えます。

ファーストパーティデータで次世代デジタルマーケティングをけん引

プラットフォーマーが持つ顧客データの多様性は、マーケティングの未来に大きな変化をもたらしています。これまでの3PC(第三者クッキー)に頼ったデータ取得が減少する中、プラットフォーム内で蓄積されるファーストパーティーデータはとても魅力です。

プラットフォーマーに出店することで得られる広告メニューは豊富です。ここでは、ユーザーの購買履歴や閲覧履歴を元にした広告が展開され、自社ECでは実現できないターゲティング方法が可能になります。もちろん、プラットフォーマーもデータの適切な使用を重視し、顧客の信頼を損なうことは避けますが、広告は売り場と直結しているため、効果的な顧客獲得が期待されます。今、自社ECを運営している事業者の5割が、集客施策に於いて思った効果が出ないと悩んでいます。[6]そのため、自社よりプラットフォーム出店に力を入れようとする事業者も少なくありません。

さらにプラットフォーマーは季節ごとに大型の集客キャンペーンを行います。世界的に有名なのが、ブラックフライデー。その他プラットフォーマーごとに独自のキャンペーンが行われます。これらキャンペーンの集客力は、自社ECでは到底実現できないものです。

データの豊富さと売り場と広告との近接性は、出店する店舗だけでなく、メーカーにも大きな興味を引きます。大手流通企業は、自社のデータを活用したリテール・メディアを開発することで、新たな広告メディアを形成しています。アマゾンを筆頭に、米国ではアマゾンがグーグルやメタに続く第三のデジタルメディアに成長し、日本でも大手流通企業がリテール・メディアを展開しています。

かつての電子モールは出店企業間で販売競争を行っていましたが、リテール・メディアが展開される現在のプラットフォームではメーカーも競争相手となってきます。もはやプラットフォームで行われている競争は、リアルの市場と変わらず商品の差別化なしには戦えない状態になってきたと言えます。プラットフォームの外の自社ECとしての差別化、プラットフォームの中における商品の差別化、の二つの差別化を考えていくことが、今後のECの出店計画には必要とされそうです。

(了)

参考文献

[1] 経済産業省「令和4年度デジタル取引環境整備事業(電子商取引に関する市場調査)」https://www.meti.go.jp/press/2023/08/20230831002/20230831002.html 

[2] 【EC売上ランキング2023年版】1位アマゾン、2位ヨドバシ、3位ZOZO、4位ヤマダHD、5位ビックカメラ、6位ユニクロ | 通販新聞ダイジェスト | ネットショップ担当者フォーラム (impress.co.jp)

[3] Amazon annual GMV by seller type 2021 | Statista

[4] 【楽天の常務に聞く2023年の戦略】流通総額10兆円をめざす戦略、配送品質の基準を満たした商品へのラベル付与、OMOは? | 通販新聞ダイジェスト | ネットショップ担当者フォーラム (impress.co.jp)

[5] 定期コースで顧客とつながりができている、と思い込むことにも危険はあります。詳しくは、コマースマーケティング 10のキーワードで楽しく学ぶリテールDX (OnDeck Books(NextPublishing)) | 山川 茂孝 | 工学 | Kindleストア | Amazonを参照ください。

[6] EC担当者1000人に聞いた集客の課題・悩み。1位は「効果が出ない」、2位は「予算がとれない」 | ネットショップ担当者フォーラム (impress.co.jp)

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