GoogleにはたくさんのComputer Scientistがいます。Googleは営利を求める企業ですから、短期的に有用なR&Dも重要ですが、企業理念の下、中長期的な視点も持って研究を進めています。Google  Research https://research.google/)というサイト(残念ながら英語)は、そんなGoogleが今どんな分野に関心があるかを知るのにとても都合がよく、時々覗かせてもらっています。(今年もそうですが、なんとなく正月に覗くことが多いような気が…) 

ちなみに、Googleでは、製品・サービス開発と研究をどのようにバランスよく進めるかについて日々議論がされているとのことで、その内容はコンピューター系の学会誌[1]にも登場しています。併せて読まれるとよいでしょう。(すんません、これも英語) 

さて、肝心のGoogleの研究分野ですが、分野別の論文の分布をみるとこんな感じです。(括弧内は筆者訳、ちょっと怪しかったり、意訳も入っている)数字は論文の本数です。 

  • Algorithms and Theory (アルゴリズムと計算の理論) 956 
  • Data Management (データマネジメント)146 
  • Data Mining and Modeling (データマイニングとデータモデリング)292 
  • Distributed Systems and Parallel Computing (分散・並列計算)270 
  • Economics and Electronic Commerce (経済モデルとEコマース)273 
  • Education Innovation (教育とイノベーション)58 
  • General Science (一般科学)216 
  • Hardware and Architecture (ハードウェア/計算アーキテクチャー)106 
  • Health & Bioscience (健康及び生命科学)141 
  • Human-Computer Interaction and Visualization (ヒューマン・コンピュータ・インタラクションとヴィジュアライゼーション)598 
  • Information Retrieval and the Web (情報抽出とウェブ)312 
  • Machine Intelligence (機械学習・機械インテリジェンス)2299 
  • Machine Perception (機械認識技術)915 
  • Machine Translation (機械翻訳)95 
  • Mobile Systems (モバイル・システム)94 
  • Natural Language Processing (自然言語処理)672 
  • Networking (コンピューターネットワーク)256 
  • Quantum Computing (量子コンピュータ)71 
  • Robotics (ロボティクス)126 
  • Security, Privacy and Abuse Prevention (セキュリティ、プライバシー、乱用防止)378 
  • Software Engineering (ソフトウェアエンジニアリング)148 
  • Software Systems (ソフトウェアシステム)339 
  • Speech Processing (言語音声処理)394 

分野の広さには驚かされますね。コンピュータ関連のほとんどが入っている感じです。そういえば、IBMの黄金期もものすごく研究の幅が広かった。今はどうなっているんだろうか・・・今度覗いてみたらまたブログにて報告します。 

さて、ここで個人的に気になる分野があります。「 Economics and Electronic Commerce (経済モデルとEコマース)」です。Eコマースはまあ良いとして、経済モデルとは何でしょうか?実はこの分野の一つの柱が、オークションの理論です。(もう少し広く言うとメカニズムデザイン[2, p.857]という分野です。)なぜオークション理論をGoogleが研究するのか?それはGoogleの広告がオークションだからです。 

Googleが広告ビジネスを本格的に開始したのは、2000年のころだったそうです[3]。この広告オークションですが、入札額が一番の高い人が勝利するのですが支払いは二番目に高い人の値付けになる、というセカンドプライスオークションという手法を基にしています。(最近Googleがファーストプライスオークションに変更している [4] 、という話はまた別途どこかで・・・)

セカンドプライスオークション方式は、参加者が自分が欲しいと思った値段を正直に提示することが自分にとっての最適の戦略となる、という特性をもっており(「誘因両立性」と言うらしい・・・)、お互いに騙しあいをしない良いメカニズムとされています。米国の電波周波数のオークションにセカンドプライスオークションが使われていたのは、この特性のためです。ノーベル経済学賞もこの分野からたくさん出ています。(このあたりのお話は[5]が分かりやすい。ご興味ある方はぜひ。) 

さて、この分野で、Googleはどんな研究をしているのか・・・こんな感じです。(タイトル、解説日本語は筆者の意訳。) 

  • ” Optimal Auctions through Deep Learning “(ディープラーニングを用いた最適化されたオークションの設計について) 

単一商材のオークションであれば参加者が正直に行動するオークションを設計することは容易であるが、複数商材・複数の参加者の選好の条件下ではそれは至難の業である。今回この課題をディープラーニングを用いて解くことを試みる。 

  • ” Targeting and Signaling in Ad Auctions”(広告オークションにおけるターゲティングと情報提供について) 

広告主は広告市場のおいてより細かいターゲティング指定を行いたいと考えるが、広告の供給側にとってはそれは必ずしも利益の最大化にはならない。供給側は、どのようにターゲッティング用のデータを提供するのが良いか、考察を行う。 

  • ” Testing Dynamic Incentive Compatibility in Display Ad Auctions” (ディスプレイ広告市場における、動的な意味での誘因両立性をテストする) 

広告市場の透明性は喫緊の課題とされているが、この論文では広告市場が「毎回正直に入札することが参加者にとって最適な戦略であった」ことを実際のディスプレイ広告市場のデータを用い、ファーストプライス、セカンドプライスなどの方法について統計的に検証する。 

などなど。どうですか?面白そうでしょ?(・・・なわけないか・・・) 

[1] Spector, A., Norvig, P., & Petrov, S. (2012). Google’s hybrid approach to research. Communications of the ACM, 55(7), 34-37. ワーキングペーパーVer.はこちら 

[2] Mas-Colell, A., Whinston, M. D., & Green, J. R. (1995). Microeconomic theory (Vol. 1). New York: Oxford university press. 

[3] markezine (2011) 「あらためて振り返る、Google広告ビジネスの概況と発展の歴史」https://markezine.jp/article/detail/13709 

[4] Digiday (2019) “What to know about Google’s implementation of first-price ad auctions” https://digiday.com/media/buyers-welcome-auction-standardization-as-google-finally-goes-all-in-on-first-price/ 

[5] 坂井豊貴. (2013). マーケットデザイン-最先端の実用的な経済学, ちくま新書. 

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