毎年行われている、経済産業省「電子商取引に関する市場調査」がいよいよ発表されました。例年8月に発表さることが多いのですが、今年は少し遅れたようです。
物販ECの成長は4.83%に落ち込む
分野別では、食品・飲料・酒類の成長が最も高くなりました。生鮮などはリアル店舗が好まれることが多いものの、ミネラルウォーターなど持ち運びが負担となる商品はネットにシフトが進んでいるものと推測されます。ふるさと納税の返礼品など、地方産品のお取り寄せの習慣も定着しており(ふるさと納税は厳密には物販ではないので集計には含まれない)、今後も食品ECに寄与するでしょう。EC化率は高くないですが、これは食品・飲料市場の大きさの裏返しで、まだまだ成長の余地のあるカテゴリーだと言えます。
EC全体の成長をけん引したサービスのEC
物販以外に、サービス、デジタルコンテンツを含めたBtoCのEC全体は、前年比9.23%増となりました。中でも全体を大きく引き上げたのが、サービスのECです。
サービスを分類別にみると、総じて大きな伸びを示していることが分かります。ただし、規模は新型コロナ前(2019年)前に回復しているものとしていないものが見て取れます。旅行については、大きく伸長しましたが、コロナ前には至っていません。海外旅行の不振などが影響したものと考えられます。
飲食サービスは、「インターネットを使用した飲食店の予約のことを指す」と定義されています。また、「座席のみの予約、料理内容の予約を問わず、事前のネット予約全てを対象」としています。飲食サービスは、2019年と比べ既に20%以上増加しています。新型コロナ以降外食需要が回復したことと、人手不足のためネットに予約がシフトしていることがEC利用を押し上げたと考えられます。同様の傾向は、理美容サービスでも見て取れます。このように、サービス分野は、店舗でのサービスが中心であるものの、集客にはECが欠かせないものとなってきています。チラシやフリーペーパーが減少する中、マーケティングについても、ネットが欠かせないものになってきていると言えます。
経済産業省「令和5年度電子商取引に関する市場調査」に過去データを加筆
通販協会はコロナ前水準の前年比6.7%増と推計
経済産業省の調査と並んでEC市場の推計値として注目されるのが、公益社団法人 日本通信販売協会(JADMA)が行っている通販・EC 市場調査です。これによると、2023年度(2023年4 月―2024年3月)の市場規模は前年比 6.7%増の13兆5,600億円でした。経産省の調査とは、集計期間、方法が若干異なりますが、BtoCの物販系ECと近い推計値と言えます(JADMA集計には、ネット以外の通販が入り、また一部BtoB取引が含まれています)。成長率は、経産省よりわずかに上ですが、2022年の二けた成長からは大きく下回っています。
さらに、直近のトレンドを示す、主要131社の8月の売上ですが、前年同月比0.9%減というマイナス成長を示しています。鈍化はしたものの、成長を続ける通販・EC市場ですが、すべての企業が成長しているわけではなさそうです。
通販・ECの勝ち組は、誰か?
では一体だれが勝ち組なのでしょうか?通販新聞のまとめによると、上位で成長率の高い企業は、いずれもEC専業企業です。300社のランキングを見ると、テレビや新聞といったマスメディアを主力媒体にしている企業の苦戦が目立ちます(詳細はウェブページ「7%増で12兆円超に<第82回通販・通教売上高ランキング 本紙調査・上位300社> 伸び率は鈍化」有料版ランキングをご覧ください。)明らかに時代はマス媒体通販からネット通販にシフトしています。
また、巨大モールの強さも目立ちます。公表はされていませんが、アマゾンの日本での売上、マーケットプレイスでの流通金額は堅調に伸びているようです。楽天は、決算資料によれば、2023年の流通総額は前年比6.9%増だったそうです。どうやら大手ECモールは、シェアを伸ばしていることが分かります。正確には、モール内のショップが売上を伸ばしているということになります。ここ数年、BASEやSTORESといった自社ECサイト運営サービスがショップ数を伸ばしてきましたが、どうやら流通量は大手ECモールに奪われている構図があるようです。
まとめ
経産省の調査結果から、それを受けてJADMA、通販新聞のデータをレビューしました。そうすると、ECの傾向は以下のように読み取れると思います。
- 物販ECの成長率は5~6%…物価・原材料高騰の中、利益確保に工夫が必要
- マス通販にはマイナス成長に直面する企業も少なくない…ネットシフトが急がれる
- サービスのEC化はまだしばらく続く…食品、理美容の次に来るものは何かに注目
- 食品は規模が大きく、ECにも成長の余地あり…潜在力のあるカテゴリーを見つけられるかがカギ
(了)
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