スマートフォンの普及で、位置情報の活用がマーケティングでも進んできました。マーケティング担当者としては夢は広がりますが、安易に手を出すと失敗にもつながります。今回は位置情報の基礎知識についてお話します。

場所を示すデータにはどのようなものがあるのか?

商圏分析などを行う場合、消費者の位置を把握しなければなりません。ただ、位置情報と言ってもいろいろなタイプのものがあり、一長一短があります。現在分析で用いられるデータのほとんどは、スマートフォンに由来するものです。携帯電話の基地局(Cell ID)は通話をするために常に情報が得られますが、基本的には携帯キャリアが管理していますから、用途に限りがあります。GPSはより広く使われる位置情報ですが、バッテリー消費を減らすため、常時計測できているわけではありません。このように計測方法はいろいろあるものの、万能な手法があるわけではなく、組み合わせて用いる場合も多くあります。

計測方法がいろいろあることが分かったところで、使う立場から位置情報のデータを見てみると、以下のようにアクションの整理ができます。

  • 商圏など広いエリアの分析を行う、ジオターゲティング広告を行う

この場合は、エリアデータを扱うデータプロバイダーのサービスを活用することになります。既にデータベースが構築され、地図・地理情報とも紐づけがされています。集計機能も豊富で、比較的自由に消費者のセグメントを設計できます。広告配信システムとも連携している場合も多く、分析で抽出したターゲットに広告配信を行うことも可能です。

一方で、個人情報の保護の観点や、データソースの粒度の関係で、どの程度の大きさのセグメントまで集計できるかはデータプロバイダーに寄ります。

  • 自社のお客様の行動の履歴を用いてメッセージを送る、販促を行う。

この場合は、自社で顧客の位置情報を蓄積する必要があります。そのため、自社アプリや、もしくは自社が設置したビーコンなどの基地局から自社のサーバーに位置情報を送り、蓄積する必要があります。顧客それぞれに対してのマーケティングが可能になる一方、データの取り扱いのルール、データ蓄積・分析基盤などを独自に作る必要があります。

もう少し大雑把に分類すると、不特定多数の消費者の位置情報を扱うのか、自社の顧客の位置情報を扱うか、の方針によって投資も分析インフラも大きく異なる、ということになります。

大切なのは「いつもの」場所なのか、「今」の場所なのか?

さて、消費者・顧客の位置情報が分かったとして、マーケティングやプロモーションで大事なのはどんな位置情報なのでしょうか?ここで出てくるのが、「いつもの」と「今」という概念です。

人の行動履歴の見方には大きく二つあります。ひとつは「いつもの」行動です。同じような行動パターンが見つかればその人の性格・性質と見ることができます。もう一つの概念が「今」の行動です。これから何をしようとしているかを表しているのが「今」の行動です。しばしば「トリガー」という言い方をしますが、何か商品を探している、というのが購買行動を表すトリガーシグナルと言えます。

位置情報ではこれらの「いつもの」「今」を以下のような集計で行います。

  • フットプリント(足跡)を基にした分析・ターゲティング

過去の特定の行動、例えば1カ月以内に来店したことがある、勤務先が〇〇駅周辺である、といった視点で集計したターゲットに対して、販促などを仕掛ける方法。

  • ジオフェンシングによるターゲティング

今、店舗の近くにいる人たち、もっとミクロには、店舗の〇〇売り場の近くにいる人たちに販促などを仕掛ける方法。

過去の集計期間を延ばすことで、フットプリントで抽出したターゲット人数は多くなります。ターゲティングは切れ味よく行いたいのでターゲット人数はあまり多くはしたくないものの、施策を考える手間を考えると絞り込みすぎると効率が落ちます。この人数に対する効率のトレードオフを考えるのが実務的には重要なことになります。

この観点からすると、ジオフェンシングは「今」をとらえる有効な手段と思えるものの、消費者が同じ時刻に同じ行動をしていることはそうは多くなく、該当者を探すのに苦労します。結果、広告としては施策の効率が落ちます。そこで、ジオフェンシング型のターゲティングを行う場合は、「トリガー型、待ち構え型」として設計するのが自然です。例えば広告よりも、「店舗入り口で今日の目玉商品を告知する」という具合に顧客のサポート情報の提供などの方が有効と言えます。

位置情報と地理情報

位置情報は、大体の場合、緯度経度データの集まりです。緯度経度の情報は人流、商圏を分析するために重要な情報源ではありますが、その場所がどのような場所なのかについてはほとんど何も語ってくれません。例えば、ある人の位置情報があって、それが移動していたとして、移動手段が車なのか電車なのかを知るためには、道路や線路の情報が必要となります。そもそも場所を知るためには地図や住所との突合せが必要です。

このような場所にまつわる情報は一般的には地理情報と言われており、それらを搭載したシステムを地理情報システム(GIS)と呼びます。位置情報を活用するためには、その位置がどのような意味があるのかを示してくれるGISが必須となります。位置情報の活用には、いろいろと準備が必要なんですね。費用も馬鹿にならないこともあり、予めデータ活用の効果を見極めておくことが重要です。

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