店内サイネージ食品卸との連携進む、リテールメディアをめぐり各社ネットワーク化を急ぐ

レシピ動画メディア「DELISH KITCHEN」を運営するエブリーは8月8日、シリーズEラウンドにおいて、加藤産業と旭食品を引受先とする総額24億円の資金調達を実施したと発表した[1]。同社は食品スーパー向けにレシピ動画の配信が可能な店頭サイネージを提供しており、現在の導入店舗数は1800店舗以上・設置台数5500台以上となっている。なお、エブリーは今回の資本調達に先立ち、2019年に伊藤忠食品からも資本を受け入れている[2]。

店内デジタルサイネージは、「リテールメディア」と呼ばれるデジタル販促ツールの一つ。店舗側は豊富なレシピ動画などを店舗客に提供し販促効果を狙い、またサイネージプラットフォームは、小売データと連携することで高度なデジタルマーケティングの実現を目指す。食品卸は両者をブリッジする役割を果たす。同じくレシピ動画「クラシル」を展開するdelyは、食品卸の株式会社日本アクセスおよびそのグループ会社D&Sソリューションズとの業務提携を発表している[3]。

リテールメディアの背後では、小売データやオンライン広告データなど、各種顧客の行動データが連携されている。小売業界では特に顧客の移動・導線データが武器となる。三菱食品は7月に、顧客の人流データを蓄積する「beacon bank」を展開するunerryと業務提携を発表した[4]。なお、unerryは、月間300億件超の人流ビッグデータ有するという。このデータと三菱食品の有する購買データを掛け合わせることで、店外と店内、リアルとデジタルを横断し最適な情報を届けることが出来るリテールメディアプラットフォームの構築を目指す。食品卸がハブとなったリテールメディアのプラットフォーム構築競争は、これからしばらく続きそうだ。

[1] レシピ動画運営のエブリー、加藤産業と旭食品から24億円を調達へ – CNET Japan

[2] (2019年記事)卸がデジタル販促で連携 店舗の集客・拡売を支援 – 日本食糧新聞電子版 (nissyoku.co.jp)

[3] (2020年記事) delyのクラシル、総合食品卸売業の日本アクセスと商品開発およびリテールマーケティング分野での業務提携を開始 | syncAD(シンクアド)| Web広告・デジタルマーケティングのいまをお届けするメディア

[4] unerry、三菱食品と業務提携し、小売・食品メーカーに向けたリテールメディアプラットフォームを共同で推進 – ZDNet Japan

Zホールディングス、22年1Q取扱高約1兆円、モールは「Yahoo!ショッピング」に統一

Zホールディングスのeコマース事業の1Qの取扱高は、前年同期比15%増の約1兆に達した。コロナで落ち込んでいたトラベル事業や海外事業が全体を押し上げた[5]。また、今年10月に「Yahoo!ショッピング」と「PayPayモール」を統合し、新生「Yahoo!ショッピング」へリニューアルするとも発表された。ユーザーにとっては商品が探し役なりユーザビリティーの向上も期待される。

国内物販系の取扱高は、前年同期比5.9%増の7316億円となった。そのうちショッピング事業が同7.9%増の4109億円。

あまり目立たないが、注目はアスクルの業績だ。22年5月期業績は、売上高が対前期比1.5%増の4285億円、営業利益が同2.8%増の143億円、経常利益は同3.0%増の142億円、当期純利益が同18.7%増の92億円で、前期に続いて過去最高業績となった[6]。オフィスのリモート化、生活様式の変化などにより、オフィス用品需要は減少したものの、工場や建設現場、倉庫などで使用される消耗品・補修用品などのMRO(Maintenance, Repair and Operation)商材の売上高が伸長。医療・介護業種や製造業などを中心とした専門商材の品揃え拡大も奏功した。

これからの成長分野の一つとして、広告ビジネスを挙げているのも注目だ。ECにおけるリテールメディアに相当するもので、BtoCビジネスのLOHACOだけでなく、BtoB分野においてもメーカーに対して広告・販促プログラムを提供していく予定だという。

[5] 【Zホールディングス2022年度1Q】eコマース取扱高は15.1%増の約1兆円、ショッピング事業は約8%増の4109億円 | ネットショップ担当者フォーラム (impress.co.jp)

[6] 過去最高業績更新のアスクル、さらなる飛躍に向けた打ち手は _小売・物流業界 ニュースサイト【ダイヤモンド・チェーンストアオンライン】 (diamond-rm.net)

21年の国内EC物販市場は8.61%増の13兆2,865億円、経産省

経済産業省は、「電子商取引に関する市場調査」の結果を発表した[7]。令和3年の日本国内のBtoC-EC(消費者向け電子商取引)市場規模は、20.7兆円に拡大している。うち、旅行などのサービス、デジタルコンテンツを除く物販系ECは昨年比8.61%増の13兆2,865億円となった。EC化率は0.7ポイント上昇し8.78%となった。

この数字は欧米に比べ高くはない。その主な原因は、物販市場の多くを占める「食品・飲料・酒類」のEC化率、3.7%という低さにある。米国では、食品や日用品を扱う小売店の多くが、カーブサイドピックアップやBOPISといったオンライン注文・店頭ピックアップ型のサービスを展開している。Digital Commerce 360によれば、米国の2021年Q1のEC化率は20%に達した模様だ[8]。そして、アドビの調査によれば、3割の顧客は、宅配よりBOPISやカーブサイドピックアップを選択しているという[9]。

ただ、日本では米国のようなピックアップ専用の倉庫や駐車スペースを確保するのが難しく、むしろレジに並ばなくて済むスマートカート、スマホレジといった買い物アシスタント用のデジタルデバイスの普及の方が早い可能性もあり、単純比較は難しい。今後は普及率といった数字だけでなく、顧客の買い物体験がどのように変化してきたかについても見ていく必要がありそうだ。

[7] 国内EC市場、巣ごもり消費で物販・デジタル分野の規模拡大 コロナ禍でEC利用が定着/経産省調査|ECzine(イーシージン)

[8] US ecommerce grows 6.7% in Q1 2022 (digitalcommerce360.com)

[9] US online retail sales to reach $1.6 trillion by 2027: report | Retail Dive

メルカリ再び赤字転落、今後の中古品市場、CtoC市場の行方に注目

メルカリが再び赤字に転落した[10]。原因は米国事業の失速だ。コロナによる需要拡大によって米国事業も拡大したが、ここに来て失速。メルカリ全体の重荷となってしまった。一方、米国最大のCtoCプラットフォーマーのイーベイも決して調子が良いわけではない。Q2の流通総額は、昨年比14%のマイナスだ[11]。

ただ、インフレや環境意識の高まりから、中古市場への期待は大きい。メルカリやイーベイのようなCtoCプラットフォームはそれを取り込む有力候補ではあるが、中古品ニーズの高まりを見越し、流通大手のウォルマートも参入を表明した[12][13]。ウォルマート自身が中古品の品質保証し、オンラインショップに商品を並べることで、インフレで遠ざかる顧客をつなぎとめようという目論見だ。同様の品質保証プログラムはイーベイやアマゾンでも行っている。

中古品の取り扱いを、ブランド自らが進める事例も出始めている。ヨガ、アクティブウェアのLululemonは、中古品の公式ショップLike Newをスタートさせる[14]。消費者は商品を持ち込むとLululemonの商品券と引き換えることができる。商品もLululemonの商品知識のあるスタッフがメンテナンスし、ブランドショップのLike Newコーナーで販売される。中古品をブランド管理下で流通させることで、品質だけでなく顧客との関係性も維持しようという戦略だ。今後このようなブランド自身によるリコマース(中古品買取、販売サービス)は、サステナブルなブランドモデルの一つの可能性として今後も増えてくるだろう。

メルカリ、イーベイが中古市場で存在を発揮するためには、商品の品質や物流といったところでどれだけ消費者から賛同を得られるかにかかってくるだろう。

[10] メルカリが最終赤字に逆戻り、米国フリマ失速 22年6月期: 日本経済新聞 (nikkei.com)

[11] Financial Report : ebay, Q2, 2022

[12] Walmart appeals to inflation-weary shoppers with refurbished goods program | Chain Store Age

[13] Walmart launches product refurbishment program | Retail Dive

[14] (4月記事)Lululemon trade-in, resell program to launch this month (cnbc.com) 以上

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